小児外科とは15歳以下のこどもの手術的治療を中心に、心臓・脳神経・整形外科疾患を除いた外科的疾患のほぼ全分野を扱う特別な診療科です。なお、もともと小児外科で治療を受けられた方や疾患自体が小児外科に特徴的な疾患の場合は、当科では16歳以上でも更には成人でも診療の対象としています。
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当施設は、愛媛県における小児外科診療の唯一の民間病院であり、四国でも数少ない日本小児外科学会指導医・専門医が診療に携わっています。
なお当科で扱っている主な疾患は以下のようになります。
上記疾患に対して、治療は小児のからだは単に大人を小さくしただけでなく、身体機能・生活習慣・疾患の種類が大人とは異なり、あらゆる臓器が未熟であり、このような小児の特徴を十分知った上で手術前後の治療を行うことが必要です。また小児のからだは大人に比べて小さく、繊細な手術のテクニックが要求されます。そして小児では手術後の経過が一生を通して長いため、より機能を重視した手術・治療が必要となります。さらに当科では、低侵襲性の外科的治療法とされる内視鏡手術を、あらゆる臓器が未熟な小児にこそ最も適した手術法であると考え、小児に対して積極的に導入し適応を拡大しています。
こどもについての専門的な知識を持った外科医それが小児外科医であり、日本の将来を担うこども達を健やかに育てるためにも誇りと情熱をもって、きめこまやかな医療を続けていきたいと考えています。
鼠径ヘルニアは立位、啼泣時、排尿・排便時など腹圧上昇時に鼠径部(〜陰嚢部)に膨隆、腫瘤が出現する疾患です。原因は、成人の鼠径ヘルニアと異なり、小児は胎児期の精巣または卵巣の下降に際して鼠径部に形成される腹膜鞘状突起の閉鎖不全が原因とされます。小児鼠径ヘルニアは自然治癒することは少なく,また乳児期の鼠径ヘルニアは嵌頓(腸管の血流障害)をおこすことが多く、現在では比較的早期に手術が行われます。手術は最近では審美的な面や対側発症の予防可能な点から、腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(LPEC法)が行われています。なお小児精系水瘤(陰嚢水瘤,精索水瘤)については、その発生原因は鼠径ヘルニアと同様であるため2歳頃までに症状軽快しないときは、同様の手術的治療(LPEC法)が行われます。
私の出身大学である徳島大学小児外科・小児内視鏡外科で1995年に考案された新しい手術手技で、2005年2月からは愛媛県下では初めて私がこの手技を導入し、今日までに個人的には1000例を越えて手術を行っています。
手技は、臍の上方から径4 mmの細い腹腔鏡を挿入し、炭酸ガスによる気腹後に臍の左側から径2mmの細径鉗子を挿入します。腹腔内を観察し(図1)、そして径1.5mmの特殊な糸付き穿刺針を用いてヘルニア嚢の全周に糸を通し高位結紮を行う手術です(図2)。mm単位の極めて小さな傷のため抜糸は不要で術後の“傷跡”はほとんどわからず美容的にも優れています。
以上の利点から、私はこの腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC法)を標準術式として行い、その結果従来の手術方法と比べても手術時間、入院日数、再発率、合併症の頻度など治療成績に問題はなく、小児鼠径部疾患に最も適した手術法であると考えています。
図1 男児左外鼠径ヘルニア症例の腹腔内からみたヘルニア門(内鼡径輪)
図2 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(LPEC法)の手技
停留精巣は、精巣が生後3か月頃までにみられる本来の生理的下降経路の途中で停留し陰嚢内に降りていない状態です。無治療ではとくに将来、乏精子症・無精子症が危惧されるため、また稀ですが停留精巣の悪性化の危険性から手術的治療が必要とされます。その推奨手術時期については精巣の組織障害進行を考慮し、1歳前後〜2歳頃が望ましいとされます。なお,精巣は陰嚢底まで降りてはいるが容易に鼠径部まで挙上やすい移動性精巣(遊走精巣)については、絶対的手術適応ではありませんが、1日のうちほとんど挙上しているものなどは手術が望ましいとされます。また幼児期に移動性精巣で治療が不要と判断された場合でも、その数年後に成長とともに相対的に精巣が挙上することがあり(精巣挙上症)、程度の強い移動性精巣は手術を含め長期間の経過観察が必要です。
手術的治療としては、精巣の位置によって異なり経陰嚢的、経鼠径管的、腹腔鏡的の方法が選択されます。
臍帯脱落時に尿膜管,臍動脈・静脈など閉鎖吸収された後,横筋筋膜で同部が閉鎖されますが、臍基部の欠損部で腹膜が突出し腸管脱出する状態が臍ヘルニア(でべそ)です。一般的には、生後数日〜数週して臍部膨隆が出現し、3〜6か月頃には最大となり、その後腹筋の発達と共に膨隆は軽快し、1歳頃に80%、2歳頃には、90%が自然治癒します。しかし医療従事者が臍ヘルニアは治癒したと考えても、保護者は臍の十分な自然な陥凹を期待するため、臍ヘルニアの治癒後の余剰皮膚残存による臍突出状態を臍ヘルニアが治癒したとは納得しがたい一面があり、自然治癒するという説明には注意が必要です。臍ヘルニアを経過観察するうえでは、臍部の絆創膏固定や圧迫療法は臍ヘルニアの治癒促進のみならず、臍ヘルニアが軽快せず手術が必要になったときも臍部の余剰皮膚の軽減にも繋がり手術が比較的容易になります。手術はヘルニア門が開存し臍ヘルニアがみられる場合や余剰皮膚による臍変形がある場合は、一般的には2歳以降に臍形成術を併施した臍ヘルニア修復術が行われます。